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最高裁判所第三小法廷 昭和35年(オ)1419号 判決 1963年10月29日

主文

原判決中上告人敗訴の部分を破棄し、本件を東京高等裁判所に差戻す。

理由

上告代理人江村高行、同河合信義の上告理由第一、第三、第四点について。

原判決は、原判示の本件店舗には一部原家屋の二階が重つており、二本の通し柱および梁が利用されていて、右二本の柱は右店舗部分の天井の一部を支えるとともに二階構造物を懸吊して互いに力学的に作用し合い、これらを取除くことは構造上不可能であつて、若し二階の部分を取除くとすれば、本件店舗部分はその形状を維持できない程度に元来の建物部分と一体不可分の関係にあることが認められ、本件店舗は上告人が権原によつて原家屋に付属させた独立の建物とは判定できないところであつて、原家屋の他の部分に附合しこれと一体になつたものであり、本件店舗の所有権は被上告人に属する旨説示している。

しかしながら、原判決がその挙示する証拠により確定した事実によれば、上告人が本件原家屋の階下南西側の約一一坪一合の部分を賃借するにあたり、被上告人は、上告人が右賃借部分を改修して店舗にすることを承諾したこと、そこで上告人は直ちに工事に着手しようとしたところ、その腐朽は甚しく、単なる改修、増築の程度では上告人の意図する飲食店営業の店舗として使用することは到底不可能であることが判明したので、被上告人の承諾を得て、賃借部分を取りこわしその跡に上告人の負担で店舗を作ることとしてその工事を訴外川上芳次に請負わせ、昭和二七年五月二六日付で東金市役所に原家屋の一部改築および増築の確認申請手続をして確認証を得た上、約一八〇万円を投じ、賃借部分のうち二本の通し柱および天井の梁を除くほかの構造物はすべて撤去して原家屋より北西部および西部に約六坪を拡張し前記柱および梁を利用して建坪一七坪三合の店舗を作り上げたことが明らかである。右事実関係によれば、本件店舗部分は、前記のとおりその一部に原家屋の二階が重なつており、既存の二本の通し柱および天井の梁を利用している事実があつてもなお、上告人が権原によつて原家屋には付属させた独立の建物であつて、他に特別の事情が存しないかぎり、上告人の区分所有権の対象たるべきものといわなければならない。しかるに、本件店舗部分は原家屋の他の部分に従として附合し、これと一体になつたものであると判断して、これにつき上告人の区分所有権を認めなかつた原判決は、所論のとおり、民法二四二条の解釈適用を誤り、ひいては理由そごの違法があるものというべく、原判決は、爾余の論点について判断するまでもなく、到底破棄を免れない。

もつとも、原判決が当事者間に争いのない事実として確定したところによれば、上告人は本件店舗部分の新築工事に着手する約一ケ月前である昭和二七年四月二八日に被上告人からその所有にかかる本件原家屋の階下の前記部分を店舗兼住宅として使用する目的で期間五年、賃料一ケ月五〇〇〇円の約定で賃借したことが明らかであるところ、もし右新築工事に着手する以前に被上告人と上告人との間で、上告人がその負担において右賃借部分を取りこわした跡に新築する店舗部分の区分所有権を当初から被上告人に帰属せしめ、上告人おいてこれを前記約定に従い賃借する旨の特約があつたとすれば、本件店舗部分は被上告人の所有に属することになるわけであるが、前掲事実関係に徴すれば、右のような特約が当事者間でなされたと解する余地がないでもない。従つて、原審をして右特約の有無についてさらに審理をつくさせるため、本件を原審裁判所に差戻すのを相当とする。

よつて、民訴四〇七条一項に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石坂修一 裁判官 河村又介 裁判官 垂水克己 裁判官 横田正俊)

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